最近、こんなことを言われる機会が増えました。
「福祉業界では、かなり異色の経歴ですよね」
自分では、あまり意識したことがありませんでした。
目の前の仕事を一つひとつやってきただけだからです。
でも、改めて振り返ってみると、確かに少し変わった道を歩いてきたのかもしれません。
私のスタートは、福祉ではありません。
もともとは「化学」の世界にいました。
そこから製造業へ。
さらに自動車業界に関わり、トヨタ生産方式をはじめ、工程管理、品質管理、納期管理、生産管理など、製造業では当たり前のように求められる様々な管理手法を学んできました。
そしてその後、まったく違う世界に見える「福祉」の仕事に入ることになります。
施設長として現場にも入り、職員採用、家族対応、行政対応、コンプライアンス、指定申請、加算、監査、事業立ち上げ、経営管理――。
気づけば、福祉事業を「立ち上げるところ」から「現場を回すところ」まで、一通り経験してきました。
一見するとバラバラな経歴です。
でも今振り返ると、そのすべてが現在の福祉経営につながっています。
原点は「化学」だった

私はもともと理系で、化学を専門としていました。
化学の世界では、
「なぜ、この結果になったのか」
を考えることが基本です。
感覚だけではなく、原因を分解する。
条件を変えて比較する。
再現性を確認する。
仮説を立てて、検証する。
こうした考え方は、後になって福祉の経営をするようになってからも、かなり役に立っています。
例えば、施設で事故が増えた。
- 職員の離職が増えた。
- 残業時間が増えた。
- 稼働率が落ちた。
- 売上が下がった。
こんな時に、
「最近の職員は意識が低い」 とか 「たまたま忙しかった」
で終わらせてしまえば、何も改善しません。
何が原因なのか。
- 人なのか。
- 仕組みなのか。
- 配置なのか。
- 業務手順なのか。
- 情報共有なのか。
- 話を聞いてあげなかった管理者のせいなのか?
私はどうしても、そうやって分解して考えてしまいます。
これはおそらく、最初に学んだ「理系の思考」が今も残っているからだと思います。
製造業で学んだ「管理」という考え方
その後、製造業、特に自動車業界に関わる仕事を経験しました。
ここで学んだことは、本当に大きかったと思います。
- 工程管理。
- 品質管理。
- 納期管理。
- 在庫管理。
- 生産性。
- 標準化。
- 改善活動。
まだまだあります。再発防止、なぜなぜ分析、5S活動、TPO、小集団活動、数えきれないほどの手法を学べました。
そして、トヨタ生産方式の考え方が大きく自分に残っています。
製造業では、「頑張れ、頑張ります」では管理になりません。
- 今日、何個つくるのか。
- 何時までにつくるのか。
- 不良率は何%なのか。
- どの工程に時間がかかっているのか。
- どこで滞留しているのか。
- 異常が起きたとき、誰がどう対応するのか。
できる限り、見えるようにします。(見える化、視える化)
そして問題が起きれば、「誰が悪いのか」よりも、
「なぜ、この仕組みで問題が起きたのか」
を考えます。

私は、この考え方が福祉業界でも非常に役に立つと感じています。
福祉は「管理」「仕組み化」によって、もっと働きやすくできる
福祉の仕事に入って、最初に感じたことがあります。
現場の職員さんは、本当に一生懸命です。
利用者さまのために頑張っている人がたくさんいます。
そしてみな優しい…
一方で、組織として見ると、業務の整理や標準化、仕組みづくりが十分でない事業所も少なくありません。
例えばシフト作成。
毎月、施設長や主任が何時間もかけてシフトを作っている。
- 希望休を確認する。
- 夜勤回数を確認する。
- 連勤を確認する。
- 人員基準を確認する。
まずは、手書きでシフト表を埋めていく…
そして、慣れない手つきでExcelに入力する…
できたと思ったら、「この日は出られません」と言われて、また修正する。
こうした業務も、製造業的に見れば一つの「工程」です。
- どこに時間がかかっているのか。
- どこを標準化できるのか。
- どこをシステム化できるのか。

そう考えれば、改善する余地はたくさんあります。
ただし、ここで私が大切にしていることがあります。
効率化は、職員をもっと働かせるためにするものではない。
ということです。
業務改善の目的は、人を削ることでも、余った時間に仕事を詰め込むことでもありません。
職員さんが無駄な業務に追われず、余裕を持って働けるようにする。
そして、その余裕を利用者さまと向き合う時間に変えていく。
私は、そのために管理や改善があると思っています。
福祉に来て、一番大切だと思ったこと
私は管理や実務については、かなり幅広く経験してきました。
- 経営もやる。
- 現場もやる。
- 行政対応もやる。
- 申請もやる。
- 収支も見る。
- 業務改善もする。
- システムもつくる。
ただ、福祉の世界に入って、最終的に一番大切だと思うようになったことは、こうした管理手法ではありません。
私が代表を務める日本福祉人財開発協会でも、大切にしている考え方があります。
「職員さんが笑顔でなければ、利用者さまは笑顔になれない」
という考え方です。
ここで誤解してほしくないことがあります。
これは、
「職員なんだから、いつも笑顔でいなさい」
という意味ではありません。
むしろ逆です。
職員さんを笑顔にするのは、経営者や管理者の仕事だと思っています。
「笑顔で働ける職場」をつくるのは経営者の仕事
- 人手が足りない。
- 休みが取れない。
- サービス残業がある。
- 人間関係が悪い。
- 上司に相談できない。
- 意味の分からないルールが多い。
- 毎日書類に追われている。
- 研修と言えば、動画を流して感想を書くだけ。
そんな職場で、「利用者さまには笑顔で接しましょう」と言っても無理です!
だから経営者や管理者がやらなければならないのは、
職員に笑顔を要求することではありません。
職員が自然に笑顔で働ける環境をつくることです。
- 業務を見直す。
- 無駄な仕事を減らす。
- 休みを取りやすくする。
- 相談しやすい組織をつくる。
- 頑張っている人をきちんと評価する。
- 働く意味を感じられる研修をする。
- 専門職として成長できる機会をつくる。
そういうことを一つずつ積み重ねていく。
私が製造業で学んだ「カイゼン(改善)」や「管理」も、最終的にはここにつながっています。
人を大切にすれば、介護はやさしくなる
介護は、人が人に提供するサービスです。
どれだけ立派な理念があっても、実際に利用者さまに接するのは現場の職員さんです。
その職員さんが疲れ切っていたらどうでしょう。
余裕がなかったらどうでしょう。
職場への不満を抱えながら働いていたらどうでしょう。
やさしい介護をしようと思っていても、心の余裕がなければ難しくなります。
逆に、
- 自分が大切にされている。
- 困った時には助けてもらえる。
- 自分の仕事を認めてもらえる。
- 成長できている。
- ここで働いていてよかった。
そう思える職員さんが増えれば、その気持ちは自然と利用者さまへの接し方にも表れると思っています。
だから私は、
利用者さまを大切にしたいのであれば、まず職員さんを大切にする。
これが福祉経営の基本だと思っています。
私がユマニチュードを大切にしている理由

その考え方とも非常に相性が良いと感じているのが、「ユマニチュード」です。
私はユマニチュードという考え方、そしてケアの手法を尊敬しています。
実際に取り入れていますし、人に教えることもあります。
ユマニチュードには、人を単なる「介護される対象」として扱うのではなく、一人の人間として尊重するという考え方があります。
- 見る。
- 話す。
- 触れる。
- 立つ。
そうした日常的な関わりの中に、「あなたを大切な人として見ています」というメッセージを込めていく。
私は、この考え方がとても好きです。
ただ、ここでも同じことが言えます。
職員さん自身が会社から大切にされていないのに、
「利用者さまを尊重しましょう」
「利用者さまを大切にしましょう」
と職員に求め続けるのには、限界があります。
人から大切にされた経験がある人ほど、人を大切にできる。
だからこそ私は、
利用者さまへのケアと、職員さんへの経営姿勢は別物ではない
と考えています。
職員を大切にすることは、きれいごとではない
「職員を大切にしましょう」
と言うと、精神論に聞こえるかもしれません。
でも私は、これはむしろ経営そのものだと思っています。
- 職場環境を改善する。
- 業務を整理する。
- 教育する。
- きちんと休めるようにする。
- 相談できる組織をつくる。
- 管理者を育てる。
こうしたことを続ければ、結果として職員は定着します。
離職率も下がっていきます。
職員が定着すれば、採用コストも下がる。
新人教育ばかりに追われなくなる。
経験のある職員が増える。
チームワークも良くなる。
ケアの質も安定する。
利用者さまやご家族との関係も良くなる。
つまり、福祉経営において、
「職員を大切にすること」は「経営を良くすること」です!
高木さと子氏との出会いと、ハグニケーションズの教え
ユマニチュードを学び、実践していく中で、私は改めて「人を大切にすること」の重要性を強く感じるようになりました。
そんな中で出会ったのが、株式会社ハグニケーションズ代表の高木さと子氏(以降「さとこ先生」と呼ぶ)です。

さと子先生が伝えていること、そしてハグニケーションズが大切にしている考え方は、私が以前から考えていた
「職員さんが笑顔でなければ、利用者さまは笑顔になれない」
という考え方と、非常に相性の良いものでした。
職員に対して、
「もっと笑顔で接しなさい」
「もっと利用者さまに優しくしなさい」
と求めるだけでは、本当の意味で良い職場にはなりません。
その前に、
- 経営者や管理者が職員を大切にする。
- 職員が安心して働ける環境をつくる。
- 自分が大切にされていると感じられる職場にする。
- 人との関わり方を学び、相手を尊重することの意味を理解する。
そうした土台があって初めて、利用者さまへのやさしい関わりにつながっていく。
さと子先生の考え方に触れたとき、
「自分が考えていた福祉経営の方向性は、これでいいんだ」
と強く感じました。
それ以来、私が経営する施設だけでなく、関わっているクライアントの事業所でも、機会があればさと子先生に研修をお願いしてきました。
テーマは単なる接遇研修ではありません。
「人を大切にするとはどういうことなのか」
「相手との関係をどう築くのか」
「職員同士が気持ちよく働くためには何が必要なのか」
「次世代管理者育成研修」などなど
福祉の仕事をする上で本当に大切な部分を学ぶ研修です。
私は、制度や加算、人員基準、収支、業務改善といった経営実務ももちろん重要だと思っています。
しかし、それだけでは良い福祉事業所にはなりません。
最終的にサービスをつくるのは「人」です。
だからこそ、職員一人ひとりを大切にする文化をつくることが、何より重要だと思っています。
そしてさと子先生には、現在、一般社団法人日本福祉人財開発協会の理事も務めてもらっています。
これは単に外部講師として研修をお願いするという関係ではありません。
私たちが目指している
「職員を大切にする福祉経営」
という考え方を、一緒に広げていきたいと思ったからです。
- 制度を学ぶ。
- 経営を学ぶ。
- 業務を改善する。
- AIやITも活用する。
それと同じくらい、
- 人を大切にすることを学ぶ。
福祉経営には、この両方が必要だと思っています。
経営が良くても、人を大切にしない会社では意味がない。
逆に、想いだけがあっても、経営が成り立たなければ続かない。
だからこそ、
「経営」と「人を大切にすること」を両立させる。
それが、私がこれからも目指していきたい福祉経営の形です。
「現場主義」 現場は仕組み化する素材の宝庫
製造業の管理手法だけを福祉に持ってきても、今の考え方にはたどり着かなかったと思います。
実際に現場に入ったからこそ分かることがあります。
私は福祉の世界に入ってから、管理者や施設長として現場を経験しました。
- 職員採用。
- 職員面談。
- 家族対応。
- クレーム対応。
- 事故対応。
- 勤務表作成。
- 行政対応。
- 実地指導、監査対応。
- 加算届。
- 変更届。
- 人員基準。
- 運営基準。
- 指定申請。
- 消防。
- 建物。
- 労務。
- 国保連請求。
- 資金繰り、金融機関との折衝
本当にいろいろなことを経験しました。
福祉施設の施設長という仕事は、実際にやったことがある人なら分かると思いますが、とにかく守備範囲が広い。
(障がい福祉サービスの就労継続支援ならここに本当に生産管理や品質管理などの製造業の手法も加わりますが、この話は別の機会に・・・)
- 朝、職員の欠勤連絡から始まり、
- 昼には家族から電話があり、
- 午後には行政から連絡が入り、
- 夕方には採用面接、
- 夜になったら翌月の勤務表を作る。
そんなことも珍しくありません。
だからこそ、
「現場はこうあるべき」と外から簡単に言うつもりはありません。
大変さを知っているからこそ、その負担をどう減らせるかを考える。
これも私の仕事だと思っています。
「経営」と「現場」の両方を知ることの意味
福祉の経営相談をしていると、
経営だけを見ている人と、現場だけを見ている人で、
話が噛み合わないことがあります。
◆経営者は、「もっと売上を上げたい、生産性を上げたい」
と言う。
現場は、
「これ以上仕事を増やさないでほしい」
と言う。
◆経営者は、「人件費が高い」
と言う。
現場は、
「人が足りない」
と言う。
どちらも間違っていません。
見る位置が違うだけです。
私は施設長として現場を経験したことで、この両方の感覚が分かるようになりました。
- 数字だけを見てもダメ。
- 現場だけを見てもダメ。
両方を行ったり来たりする必要があります。
そして、その間をつなぐのが「仕組み」だと思っています。
福祉経営には「行政」という特殊なプレイヤーがいる
もう一つ、福祉業界に来て大きく違ったのが行政対応です。
福祉事業は、普通の会社経営とはかなり違います。
- 介護保険法。
- 障害者総合支援法。
- 指定基準。
- 報酬告示。
- 解釈通知。
- 自治体独自のルール。
- 加算。
- 減算。
- 変更届。
- 体制届。
- 運営指導。
- 実地指導、監査。
- 指定更新。
福祉事業を経営するということは、こうした制度の中で経営するということでもあります。
そして、この世界は、「知らなかった」では済まないことがたくさんあります。
私は、こうした面倒な手続きや行政対応も数多く経験してきました。
正直、最初から好きだったわけではありません。
しかし、何度も調べ、行政に確認し、申請書を書き、指摘を受け、修正していくうちに、いつの間にかかなり詳しくなっていました。
これも今では大きな財産です。
事業を「つくる側」も経験した
さらに、福祉事業の立ち上げにも関わってきました。
福祉事業は、指定を取れば終わりではありません。
- 物件を探す。
- 用途地域を確認する。
- 消防設備を確認する。
- 人員を集める。
- 指定申請をする。
- 運営規程を作る。
- 重要事項説明書を作る。
- 契約書を作る。
- 請求できる状態にする。
- 利用者を集める。
- 職員を教育する。
- 収支計画を立て実際と合わせる。
事業を立ち上げるということは、こうしたものを全部つなげることです。
私はいつの間にか、
「事業を立ち上げる」
「行政手続きをする」
「現場を運営する」
「数字を見る」
「業務を改善する」
「職員を育てる」
という、一連の流れを経験していました。
自分は何者なのか
最近、自分でも時々考えます。
自分は何屋なのだろう、と。
- 化学の専門家だった。
- 製造業にもいた。
- 自動車業界で生産管理を学んだ。
- 福祉施設の施設長もやった。
- 福祉事業の立ち上げもやった。
- 行政対応もやった。
- 経営もやった。
- 職員研修もやる。
- 最近ではAIやシステム開発までやっています。
一見すると、まとまりがありません。
でも、今になって思います。全部つながっていました!!!
自分の仕事は、
「複雑なものを整理し、人が働きやすい仕組みに変えること」
なのかもしれません。
化学でもそうでした。
製造業でもそうでした。
そして福祉でもそうです。
福祉の常識だけで、福祉を考えない
私は、福祉業界の良いところをたくさん知っています。
一方で、
「昔からこうだから」
「福祉ではこれが普通だから」
という言葉には、少し疑問を持つようにしています。
製造業ではどうしていたか。
IT業界ならどうするか。
AIならできないか。
違う業界ならどう考えるか。
福祉業界の問題を、福祉業界の常識だけで解決する必要はありません。
むしろ、外の世界にヒントがあることの方が多いと思っています。
ただし、新しいものを導入する目的を間違えてはいけません。
AIを入れることが目的ではない。
DXをすることが目的ではない。
生産性を上げること自体が目的でもない。
その先にいる「人」を楽にする。
その結果、利用者さまへのケアを良くする。
そこまでつながって初めて、意味があると思っています。
異色の経歴は、遠回りではなかった

- 化学。
- 製造業。
- 自動車。
- 生産管理。
- 品質管理。
- 福祉。
- 施設運営。
- 行政対応。
- 事業立ち上げ。
- 経営。
- 職員教育。
- AI。
こうして並べると、かなり節操のない経歴にも見えます。
でも、今はこれでよかったと思っています。
一直線に福祉だけを歩いていたら、今とは違う考え方をしていたかもしれません。
遠回りに見えた経験が、全部いまの仕事につながっています。
だから私は、
「福祉の常識に、他業界の知恵を持ち込む」
ということを、これからも続けていきたいと思っています。
でも、その中心にあるのは、管理でもAIでもありません。
人です。
職員さんが笑顔で働ける会社にする。
職員さんが、「ここで働いていてよかった」「うちの親もこの施設に入居させたい」
と思える会社にする。
そうすれば、その笑顔は利用者さまに伝わります。
- 利用者さまへの声のかけ方が変わる。
- 接し方が変わる。
- 介護がやさしくなる。
- そして、利用者さまも笑顔になる。
私は、
「職員さんが笑顔でなければ、利用者さまは笑顔になれない」
という言葉を、これからも福祉経営の中心に置いていきたいと思っています。
そしてもう一つ。
職員を本当に大切にする会社こそ、福祉で一番の会社になれる。
私は、そう信じています。